American Dreamin'
この曲は、アメリカへ行く前に作ったのか、行った後に作ったのか、忘れてしまいました。その時点では曲の1番に当たる部分しかできていなかったので、バンドで構成を決めた後、最終的なメロディーと歌詞はレコーディングをする時期に一気に仕上げました。「JFKを追うのなら」からのCメロが特に気に入っていて、福岡でのバンド合宿中に、メンバーの小森がコード進行を決めて、東京に帰ってきてから僕がそこにメロディをのせました。二人の個性が効果的にあらわれたのではないかと思っています。
そして、「JFKを追うのなら」という歌詞は、小沢健二の『ある光』からの引用です。『ある光』は個人的に思い出深い曲で、「あと15分ばかりでJFKを追い〜」の部分が強く印象に残っていました。意味はよく分からなくても、何故か霊的な響きで僕らの心に訴えかける言葉やフレーズがあります。小沢健二がどういう意図で歌っているのか、本当のところは僕らには分かりませんが、僕は僕なりの解釈でこの『American Dreamin'』に落とし込んだつもりです。
僕はこれまでずっと、自分が大好きな尊敬するアーティスト、哲学者、詩人、小説家、思想家たちと関連付けることでしか自分の内面について考えられませんでした。自分にとって美的なもの、自分が信じるもの、それらに自分の姿を重ねることによるノスタルジーや陶酔から逃れられませんでした。そして、それは今でも変わらないです。ただ、それを無意識に続けているうちに、他者との関連付けの中で生まれた自分は本当の自分なのだろうか? 自分らしさとは、僕にしか作れないものとは、一体何なのだろうか? という問題に直面しました。(まさにこの「JFKを追い」の話のように、引用し、その引用をもとにこうして文章を展開していることも関連付けの良い例です)
そんな自分と、僕が生まれた日本という国の問題とを同等に考えざるを得ませんでした。日本は、島国で閉鎖的ではありますが、特に中国の影響を受けながら、文化を発展させてきました。本当に日本的なものとは何なのだろうか? と遡っていくと、その姿を見つけることは、かなり難しいのではないでしょうか。僕の尊敬する大学の教授が何度も強調して教えてくれたことですが、日本は中国やインドに比べてもまだまだ新しい国であり、おそらく、日本に根拠というものはないのだと思います。もちろん僕は日本の文化が好きですが、古事記であったり、天皇であったり、無理に根拠を作ろうとして、また、それらに頼りすぎて、排他的になってしまったら、それは過激な思想と何ら変わりありません。僕は決して、真の日本を取り戻せ! とかそういうことが言いたいのではありません。むしろ、僕は、歴史とか、時間とか、言葉とか、僕らが生まれた時から、僕らを縛りつけてしまう、そのような制約を超えていきたい。だからこそ、僕は僕自身に矛盾を抱えていて、そのせいで苦しいのです。
19世紀、明治維新による西欧思想とその理性主義の日本への導入は、情緒的な陶酔に頼っていた日本人にとっては衝撃で、多くの人が混乱したでしょうし、日本全体にとって転換期となる大きな出来事であったはずです。
自分の生に根拠があると思い、ぼんやりとしたワケの分からない幻想を信じていたかった僕が、根拠なんてそもそもないのではないかと気付いてしまったことと、日本が急激に西欧の思想を取り入れた時の混乱とを重ねずにはいられませんでした。
アメリカという国は、そういう意味でも日本と正反対に思えるのです。東部海岸沿いの13植民地から、フロンティア精神で自分たちの生きていく場所を西へ西へと切り開いていきました。明治維新、帝国主義の時代、その後の2回の世界大戦があり、結果的に戦争に勝利したのは、ワケの分からない幻想に縋っていた日本ではなく、フロンティア精神を持ち、自ら切り開いていったアメリカであり、そのアメリカこそが世界の覇権を握り続けているということへのコンプレックス、悔しさ、憧れ。
インディアン虐殺の歴史を肯定する訳ではありません。侵略者になるくらいなら、勝者になんかならなくても、敗者のままでもいいのではないか、という風に言われれば、それもそうだとしか言いようがありません。しかし、幻想に縋っていた日本も、結局は軍国主義のファシズム体制に陥り、朝鮮や東南アジア諸国を侵略していった虐殺の歴史なのです。虐殺してしまったらお終いだし、それ自体を肯定できる理由なんて微塵もありません。どちらの立場も悪い点はそもそも同じなはずです。僕が今ここで問題にしているフロンティア精神は、あくまでも比喩的な話です。
戦後、日本はアメリカの属国となり、どんどんアメリカに染められていきます。根拠がない日本、根拠がない僕、そんな我々を我々たらしめるものは何かと言えば、変幻自在であることではないかと、先述の教授が教えてくれました。それを聞いて僕は、変幻自在である者にしか感じ取れないものや生み出せないものがあるのではないかと、少し心が救われる思いでありました。
ただ、僕が今後生きていく上で、その変幻自在さを受け入れていくのか、無理やりにでも根拠、幻想を作り出してそれに縋っていくのか(それはある意味では、楽なのかもしれません)、今の段階ではまだわかりません。この地球上の土地が全て明かされたものになった今の世界では、新たなフロンティアを求めることは、次なるステージとしての宇宙に進出し、そこで1からまた我々の歩みをスタートさせない以上は不可能と言えるでしょう。僕がいつでも宇宙を夢見ているのは、それ故なのかもしれません。だから、「フロンティアの消滅」を地球上において、既に果たしてしまったアメリカに対する憧れがあるのだと思います。
JFK(ジョン・F・ケネディ)は、当時、ニューフロンティア政策を掲げました。
僕が目指すべきものの姿はわからないですが、この『American Dreamin' 』は、そんな迷いの時点を歌った曲です。
自分らしさを見失っている僕が、フロンティア精神を求め、少しでも今の自分から変わりたいと願うなら(JFKを追うのなら)、瞳を閉じて、歴史や他者との関連付けではない、自分の心の底から湧き上がってくる本当の声、本当の気持ちを見つめてみよう、それだけが新たな自分を作るはずさ、という、ただただ憧れの歌なのであります。
by 池田銀 (Gt., Vo.)
American Dreamin' / Chika Feldie
Spotify
https://open.spotify.com/intl-ja/track/7E7ozFV6Jg1ZQeB8yM79bb?si=94114c89f7dc4496
Apple Music
https://music.apple.com/jp/album/american-dreamin/1794115931?i=1794116301